1 часть (1/1)
「んじゃ、乾杯!」となーくんが水のグラスを持ち上げる。「かんぱーい!」「どれだけ飲むんだよ、お前ら…」疲れそうに言っても莉犬も差された杯でじゃんする。久しぶりに居酒屋で集まった6人の俺たち。最近、新曲の作業であまりうちから出かけなくて、こうやってみんなの顔を見られてヒーリングになるし、気分も華やぐ。こんな俺たちはあとはどれくらい残ったのだろうか。あとどれくらいその笑顔が観られるのだろうか。たぶん、久しぶりだから余計にセンチメンタルだ。たぶん、幸せの甘酸っぱさはお酒のせい。ある時点でみんなの話が遠くなって自分の考えに夢中で聞き取れなくなる。俺の前に明らかに酔った莉犬は寝ぼけ眼している。莉犬とジェルの真ん中にそわそわしているるぅとの表情を見て、またなにかを必死に否定しているとすぐわかる。なーくんが俺の目線から見えないけど、動くのに苦労だから、別に見なくても良い。ジェルがまたビールを注文しているらしい。あんなに遠く座っているのはなんでだろうとふと思う。隣のころん珍しく大人しくて、思うのに間も無く彼の太ももを揉むという悪戯してしまう。「それあの…セクハラやめてもらえますかねー」気怠げにころんが告げる。「俺、来ると思ったから、反対側に座っちゃった」と莉犬が楽しそうに笑う。あれ、眠くなかったっけ?「いいんじゃない、柔らかいしぃー」「さとみくん、もう飲んじゃだめよ」「なぁんでだよぉーせっかく集まることができたのに!おい、るぅと、これ返して」と拗ねてるぅとの手に届かずにいる。「これだけ飲ませてくれても大丈夫だと思う」「まぁ、なーくんがそう言うなら…」るぅとは迷いながらも杯を渡す。そして、俺はこの杯を一気に乾かす。「そろそろ帰るんだから、平気かも」「『かも』って、なーくん、お前さぁ…」ちょっと酔ったと認めている。けど、意識している限り、酔っ払ったと言えない。酔い潰れたいけどな。「俺はここまで。さとみくんも元気になったそうで」「うん」「俺最初から元気やったんけど」「じゃあねー」「無視すんな」気づいたら、ジェルと二人きりになってしまった。ジェルが黙り込んで、俺も一言も言わない。っていうか、言えない。二人きりでいたことは山ほどあって、静寂が流れる中そわそわなるのは今日は初めてだ。あいつのこと何想っても、自分を押さえるのに自信がある。痛いくても。お酒のせいにしようと思い、悩ましげに鼻で笑った。「まだ酔ってんの」「酔ってないっつーの」「…そう」あれ?これ、凄くぎこちないんですけど?「ジェル、お前こそいつもより飲みすぎない?俺見ていたよ」「え、きもいわ」と嫌そうな声で言いかけるけど、彼の唇は弧を描いたことに気づく。わけわからない。俺、やっぱり、酔ってる?「俺はここまで」ジェルは踵を返そうとするけど、俺は彼の手を掴む。「ん?」「俺、酔ってるんで、一人で家に帰りそうにないんだ」「最初から言えよ、もう」心配そうな眼差しを俺に向かってジェルは横に並べる。「家まで送ってほしい」「…わかった」言い過ぎたかも。お酒のせいにしていいんだ。もう少し一緒にいたいんだ。今日は特に。「ねぇ、さとちゃん」「なんだ?」「ん…別に」「なんだよ、言ってよ」「なんでもない、ほんと」「は…」一緒に人気のないバスに乗って、一番後ろにある席を取る。変な雰囲気に纏われて意味のない話をする。「ついたよー」「おれんち、寄らない?」「え?」「遠いし、終バスの時間だし、それとも夜は寒いから、泊まっていいよ」「ええわええわ、気にしなくても。タクシーをとるから」「…」寂しそうに目を逸らしても、何も変わらないと思ってるのに、こんな嗤われそうな仕草でどうか届けてほしい。ここまで連れて申し訳なくて、でも、何もかも嬉しいんだ。朝までいてほしいな。「ぁ、あーあ、タクシーは随分高くなったなー。…ほんとに泊まっていい?」「うん」顔を背けて、忍び笑う。ジェルは「お邪魔します」と告げ、靴を脱ぐ。「いやぁ、さとちゃんのうち久しぶりやなー」「そう?トイレはどこなのかわかる?」「そんなに久しぶりじゃない」「変なところで突っ込むんだね、おまえー。手ぇ洗ったら、あの部屋で布団を準備するから」「あの部屋?」「なんだ?」「一緒、じゃないんだ」と呟くジェルくんに驚いて、息を呑む。「もちろん、俺もあの部屋で」「そっか」洗面所から出たジェルの姿に気づく。俺に寄ってきて「手伝ったるわ?」と面白そうな言い方して、布団を俺の手から引き抜く。「なんで電気つけない?」「そんな気分じゃない」「電気にも気分があるんだ、さとちゃん」隣に並ぶ布団はぬくぬくだ。寝付くジェルはほぼ裸で、ちょっと恥ずかしい。しかも、俺も、下着しか履いていない。頰は赤らめても、暗いから見えない。淡い静けさの中、ジェルの息の音が聞こえている。「なんか痛い?」「なんで?」「目付きはなんか痛そうで」また心配そうな顔をしている。この目はおまえのせいだと知ったらどうするかな。「いいんだ、頭少し痛いだけ。早よ寝なよ」「薬は?飲まない?」「いいよ、ほんま」なぜかその声は今だけに特別に綺麗にきこえる。どうしようもなく俺はジェルのこと恋をしている。「寝よう」寝たふりをしていても、眠れそうにない。それは当然なこと。胸騒ぎはいつもよりうるさくて、無視できない。目を開けると、そこは月の柔らかい光に照らされた静かに眠っているジェルの顔。「髪の毛伸びたね」と自分に思って、彼の寝顔を眺め続ける。ちゃんと眠っていると確認して少しだけジェルの元に寄る。こんな夜の暗がりの中で紛れたい、満たされたい。「抱きしめてほしい」と思って、ジェルは驚いた目を開ける。「ほんま?」「え、な、なに?寝てないの?」「今言ったこと、ほんま?」自分が何をしたか自覚する。最悪な気持ちだ。死にたいほど自分をここから消したい。でも仕方がない、どうせ自分の家だし、逃げるところもないんだ。「…うん」黙ってジェルは俺の身体を引き寄せる。俺は指一本も動かせない。まるで全身が痺れて動けなくなった。「それ、全部?」「どいう意味?…」「俺、さとちゃんと今夜…」ジェルは目を背けて、彼の耳が桃色に染めた。月の下でその表情は儚く見える。「俺も」この暗くてぬるい部屋はいつもより心地がいい。俺と自分の温もりを分かち合う人のせいか、いつもより…いいんだ。「あっ」「ごめん、やっぱり痛い?」「い、いいよ」「俺、ゆっくりいくから」と彼はやんわりと呟いて、おでこにキスを落とした。そして、目、頰、鼻、唇に優しく触れて、俺は泣きそうになった。大人の俺に情けないことだと思って耐える。ジェルが俺の目尻にキスを落とすまでに。「いくよ」彼は俺たちの手を絡んで、俺をベッドに押した。そして何回もそうして、このぬるい部屋は熱い吐息まみれになってしまった。痛い、気持ちいい、そんな言葉絶対口にしないけど、本当はそうだった。彼の優しさと熱で俺は愛されると感じた。儚い想いは一緒なら強くなる。「朝まで一緒にいたい」「うん」